アルティン環の冪零根基 (と選択公理)

 環の中には、アルティン環ネーター環というイデアルの列で定義される環がある。以下に記す命題3は、この二つの環を繋げる役割を持つ命題だが、アティマクの証明*1 が直感的でなく、個人的にわかりにくかったので、別証明を考えた。以下 $A$ を単位的可換環とする。

定義 1
$A$ の任意のイデアルの列 $I_1 \supset I_2 \supset \cdots $ に対し、ある $m > 0$ が存在して、$I_m = I_{m+1} = \cdots$ となる時、$A$ をアルティン環という。
 
定義 2
$I \subset A$ をイデアルとするとき、$\sqrt{I} = \{ a \in A \mid \exists n > 0, a^n \in I \}$ をイデアル $I$ の根基という。特に $\sqrt{(0)}$ を冪零根基という。
 
$\sqrt{I}$ も $A$ のイデアルになる。さて、以下の命題はアルティン環では、冪零根基もまた冪零であることを主張する。
 
命題 3
$A$ をアルティン環、$\sqrt{(0)}$ を冪零根基とする。この時、ある $n > 0$ が存在し、$(\sqrt{(0)})^{n} = (0)$ である。
 
(証明)
任意の $n > 0$ に対し、$(\sqrt{(0)})^{n} \neq (0)$ と仮定する。仮定より、任意の $n > 0$ に対し、$x \in \sqrt{(0)}$ で、$x^{n} \neq 0$ となるものがある。よって $n = 1, 2, \cdots$ に対し、$S_n = \{ x \in \sqrt{(0)} \mid x^{n} \neq 0 \}$ とおけば、これは空ではない。可算選択公理により、選択関数 $a : \mathbb{N} \to \bigcup^{\infty}_{n = 1} S_n$  が存在し、$a_n = a(n) \in S_n$ となる。$n = 1, 2, \cdots$ に対し、イデアル $I_n = \bigcap^{n}_{i = 1} (a_i)$ を定めれば、$I_1 \supset I_2 \supset \cdots$ はイデアルの下降列だが、$A$ はアルティン環なので、ある $ m > 0 $ が存在して、$ I_m = I_{m+1} = \cdots $ となる。$ a_m \in  \sqrt{(0)} $ なので、ある $ k > m $ が存在して、$a_m^{k} = 0 $ となる。$ a_k \in  I_k = I_m $ なので、ある $c \in A$ があり、$ a_k = ca_m $ となるが、$a_k^{k} = 0$ となって矛盾である。 ■
 

選択公理を全面に出してる感じだけど、個人的には教科書の証明よりは直裁だと思う。ちなみに教科書の証明では、上のアルティン環の定義(降鎖条件)と同値な極小条件を使って証明を行うのだが、ネーター環の場合は、イデアルの列の条件(昇鎖条件)から、極大条件を導くのに、選択公理が使われているらしい *2 ので、もしかしたら同じことがアルティン環でも成り立つのかもしれない。

*1:Atiyah, Michael; Macdonald, I. G. (1969), Introduction to commutative algebra, Proposition 8.4

*2:Noether環の条件について : 選択公理 | 壱大整域