Darboux の定理とその同値な命題を介した証明

0. この記事でやること

 Darboux の定理と言う名前の定理はいくつかあるらしいが、ここでいう Darboux の定理は、解析学における積分の理論で重要になる命題である。最近解析学を学んでいるのだが、Riemann 積分の理論の中では一番技巧的(?)な命題で、ちょっと理解に苦労したので、この命題の証明を自分で再構成してみることにした。以下では、 Darboux の定理と同値な命題を明らかにした上で、それを用いて定理を証明する。本質的な部分は教科書の標準的な証明 *1*2 と変わりはないが、より本質がわかりやすい形になっていると思う。

1. Riemann 積分

 $f$ を閉区間 $[a, b]$ で定義された実数値関数とする。ある定数 $ M > 0 $ が存在して、 任意の $x \in [a, b]$ に対し、$|f(x)| \leq M $ が成り立つとき、$f$ は $[a, b]$ で有界である、という。以後このような関数を考えていくことにしよう。

 

定義1.1 $P = (x_0, x_1, \cdots , x_n)$ を $a = x_0 < x_1 < \cdots < x_n = b$ であるような列とする。これを区間 $[a,b]$ の分割といい、各 $x_i$ $(i = 0,1, \cdots, n)$ を分点という。

 

 $i = 1, 2, \cdots n$ に対し、 $\Delta x_i = x_i - x_{i-1}$ とかく。$f$ は各小区間 $[x_{i-1}, x_i]$ で有界なので、その区間における $f$ の値域の上限 $M_i$ と下限 $m_i$ が存在する。*3 すなわち、$M_i = \text{sup}f(x)$ , $m_i =  \text{inf}f(x)$ $(x_{i-1} \leq x \leq x_i)$ である。

 

定義1.2 $P = (x_0, x_1, \cdots , x_n)$ を一つの分割とする。この時、$U(P, f) = \sum_{i=1}^{n} M_i \Delta x_i$ を 分割 $P$ に対する $f$ の上方和 、$L(P, f) = \sum_{i=1}^{n} m_i \Delta x_i$  分割 $P$ に対する $f$ の下方和という。

 

 以下に $f(x) = x^2$ , 区間 $[0, 3]$ の場合を簡単に図示した。赤い部分で囲まれた長方形の面積が下方和であり、下方和に青い部分の長方形を足したものが上方和である。

 

 

 $f$ は $[a, b]$ で有界なので、定数 $ M $, $ m $ が存在して、任意の $x \in [a, b]$ に対し、$ m \leq f(x) \leq M $ となる。$ m \leq m_i \leq M_i \leq M $, $\Delta x_i \leq b-a$ であることから、任意の分割 $P$ に対し、$m(b-a) \leq L(P, f) \leq U(P, f) \leq M(b-a)$ となる。したがって、上方和全体の集合 $\{ U(P, f) \mid P$ は区間 $[a, b]$ の分割 $\}$ は下に有界、下方和全体の集合 $\{ L(P, f) \mid P$ は区間 $[a, b]$ の分割 $\}$ は上に有界である。

 

定義1.3 ${\int}_{a}^{\overline{b}}f = \text{inf}\{ U(P, f) \mid P$ は区間 $[a, b]$ の分割 $\}$ を Riemann 上積分、$\int_{\underline{a}}^{b}f = \text{sup}\{ U(P, f) \mid P$ は区間 $[a, b]$ の分割 $\}$ を Riemann 下積分という。$\int_{a}^{\overline{b}}f = \int_{\underline{a}}^{b}f$ である時、$f$ は $[a, b]$ で Riemann 積分可能であるという。また、この共通の値を $\int_{a}^{b}f$ とかき、$f$ の区間 $[a, b]$ における Riemann 積分という。

 

 以下、単に上積分、下積分といった用語を用いることにする。

 

2. Darboux の定理の証明

 上で定義したように、上積分(下積分)は上方和(下方和)全体の集合の上限(下限)である。これを上方和(下方和)によるある種の極限として定義できる、と主張するのが、Darboux の定理である。

 分割 $P =  (x_0, x_1, \cdots , x_n)$に対し、$d(P) = max \{\Delta x_1, \Delta x_2, \cdots \Delta x_n \}$ とおく。この時、$d(P)$ を $0$ に近づけるということを考える。これに応じて、各小区間をどんどん小さくなり、また分点の数も増えていく。つまり、分割 $P$ を「一様に細かく」していく操作と解釈することができる。これを極限の記号を用いて、$\lim_{d(P) \to 0}$ と書くことにしよう。

 

命題 2.1 (Darboux の定理)
$f$ を区間 $[a, b]$ で有界な実数値関数とする。
$$\lim_{d(P) \to 0}U(P, f) = \int_{a}^{\overline{b}}f$$
$$\lim_{d(P) \to 0}L(P, f) = \int_{\underline{a}}^{b}f$$
である。
すなわち、任意の $\epsilon > 0$ に対し、ある $\delta > 0$ が存在して、$d(P) < \delta$ を満たす任意の分割 $P$ に対し、
$$|U(P, f) - \int_{a}^{\overline{b}}f| < \epsilon$$
$$|L(P, f) -  \int_{\underline{a}}^{b}f| < \epsilon$$
が成り立つ。

 

 さて、証明に入る前に、分割 $P$ を細かくしたものである細分を定義しよう。細分を考える時は、分割 $P$ を集合として $P = \{x_0, x_1, \cdots, x_n \}$ と表すものとする。*4

 

定義2.2 分割 $P$ に対し、分割 $P'$ が $P$ の分点を全て含んでいるとき、 $P'$ を $P$ の細分という。

 

 証明はしないが、$P'$ が $P$ の細分である時、$L(P, f) \leq L(P', f) \leq U(P', f) \leq U(P, f)$ である。これは分割を細かくすればするほど、上方和(下方和)が上積分(下積分)に近づいていくという直感を捉えている。この細分を用いて Darboux の定理と同値な命題を表すことが証明の鍵になる。以下の証明では上方和と上積分についてだけ考える。下方和と下積分も同様に証明することができる。

 

命題 2.2 (Darboux の定理と同値な命題)
$f$ を区間 $[a, b]$ で有界な実数値関数とする。以下は同値である。
(1) $\lim_{d(P) \to 0}U(P, f) = \int_{a}^{\overline{b}}f$
(2) $\lim_{d(P), d(P') \to 0}|U(P, f) - U(P', f)| = 0$ である。
すなわち、任意の $\epsilon > 0 $ に対し、ある $\delta > 0$ が存在して、$d(P), d(P') < \delta$ であるような任意の分割 $P$, $P'$ に対し、$|U(P, f) - U(P', f)| < \epsilon$ である。
(3) $P'$ が $P$ の細分なら、$\lim_{d(P) \to 0}|U(P', f) - U(P, f)| = 0$ である。
すなわち、任意の $\epsilon > 0 $ に対し、ある $\delta > 0$ が存在して、$d(P)< \delta$ であるような任意の分割 $P$ と $P$ の任意の細分 $P'$  に対し、$|U(P', f) - U(P, f)| < \epsilon$ である。
 

 (証明) $(1) \Rightarrow(2)$ :  仮定より、$\epsilon > 0$ が任意に与えられた時、$\delta > 0$ が存在して、$d(P) < \delta$ なら、$|U(P, f) - \int_{a}^{\overline{b}}f| < \frac{\epsilon}{2}$ である。同様に、$d(P') < \delta$ なら、$|U(P', f) - \int_{a}^{\overline{b}}f| < \frac{\epsilon}{2}$ である。したがって、$d(P), d(P') < \delta$ なら、 $|U(P, f) - U(P', f)| \leq |U(P, f) - \int_{a}^{\overline{b}}f| + |\int_{a}^{\overline{b}}f - U(P', f)| < \frac{\epsilon}{2} + \frac{\epsilon}{2} = \epsilon$  である。

$(2) \Rightarrow(1)$ :  $\int_{a}^{\overline{b}}f$ は上方和の集合の下限だから、$\epsilon > 0$ が任意に与えられた時、$U(P_0, f) - \int_{a}^{\overline{b}}f < \frac{\epsilon}{2}$ となる分割 $P_0$ が存在する。必要なら、$P_0$ の細分を考えることで、$d(P_0)$ を十分小さくして良い。仮定より、 $d(P), d(P_0) < \delta$ となる $\delta$ を十分小さくとると、$|U(P, f) - U(P_0, f)| < \frac{\epsilon}{2}$ となる。したがって、$d(P) < \delta$ ならば、$|U(P, f) - \int_{a}^{\overline{b}}f| \leq  |U(P, f) - U(P_0, f)| + |U(P_0, f) - \int_{a}^{\overline{b}}f| < \frac{\epsilon}{2} + \frac{\epsilon}{2} = \epsilon$ である。

$(2) \Rightarrow(3)$ : $P'$ が分割 $P$ の細分である時、$d(P') \leq d(P)$ であることを考えれば、仮定より直ちに従う。

$(3) \Rightarrow(2)$ : $P, P'$ を二つの分割とする。この時、細分 $Q = P \cup P'$ を考える。任意の $\epsilon > 0$ に対し、$\delta > 0$ を十分小さくとれば、$ d(P), d(P') < \delta$ ならば、仮定より、$|d(P) - d(Q)| < \frac{\epsilon}{2}$ であり、$|d(P') - d(Q)| < \frac{\epsilon}{2}$ である。よって、$|d(P) - d(P')| \leq |d(P) - d(Q)| + |d(Q) - d(P')| < \frac{\epsilon}{2} + \frac{\epsilon}{2} = \epsilon$ となる。 ■

 

 上の命題によって、Darboux の定理を示すためには (2) か (3) の条件を示せば良いことがわかった。(2) はいわゆる Cauchy の収束判定法に似ているが、2つの異なる分割の上方和を比較しなければならないので、これを直接証明するのは難しい。そこで (3) の条件を示すことにする。分割とその細分の上方和の差は比較的簡単に計算できる。

 

((3) の証明) $P = (x_1, x_2, \cdots, x_n)$ を任意の分割とし、$P'$ を $P$ の任意の細分とする。 $P'$ に新たに付け加えた分点の数を $n_0$ として、$n_0$ に関する帰納法で示す。

 $n_0 = 1$ のとき、ある小区間 $[x_i, x_{i-1}]$ があり、この区間に新たな $P'$ の分点 $x^{*}$ が存在する。そこで、$M^{*}_1 = \text{sup}f(x)$ $(x_i \leq x \leq x^{*})$, $M^{*}_2 = \text{sup}f(x)$ $(x^{*} \leq x \leq x_{i+1})$, $M_i = \text{sup}f(x)$  $(x_{i-1} \leq x \leq x_i)$  とおく。$f$ は $[a, b]$ で有界なので、全ての $x \in [a, b]$ に対し、$ |f(x)| \leq M $ となる $ M $ が取れる。この区間における上方和の差が $U(P, f)$ と $U(P', f)$ の差であることを考えれば、

$$\begin{align} |U(P', f) - U(P, f)| &= M^{*}_1(x_i - x^{*}) + M^{*}_2(x^{*} - x_{i-1}) - M_i(x_i - x_{i-1}) \\ &= (M^{*}_1 - M_i)(x_i - x^{*}) + (M^{*}_2 - M_i)(x^{*} - x_{i-1}) \\ &\leq 2|M|(x_i - x_{i-1}) <  2|M|d(P) \end{align}$$ 

したがって、$d(P) \to 0$ なら、左辺は $0$ に近づく。さて次に、$n_0 \geq 1$ とするとき、$P''$ を $P'$ から一つ分点を除いた $P$ の細分とする。この時、$P''$ は $P$ に $n_0 - 1$ 個分点を付け加えた細分で、$P'$ は $P''$ に一つ分点を付け加えた細分である。$d(P'') \leq d(P)$ であることに注意して、帰納法の仮定と合わせると、任意の $\epsilon > 0$ に対し、$\delta > 0$ を十分小さく取ると、$d(P) < \delta$ なら、$|U(P', f) - U(P'', f)| < \frac{\epsilon}{2}$ かつ $|U(P'', f) - U(P, f)| < \frac{\epsilon}{2}$ とできる。したがって $d(P) < \delta$ なら、$$\begin{align} |U(P', f) - U(P, f)| &\leq |U(P', f) - U(P'', f)| +  |U(P'', f) - U(P, f)|  \\&< \frac{\epsilon}{2} + \frac{\epsilon}{2} = \epsilon \end{align}$$ となる。 ■

 

 これで証明が終わった。なんだかんだで(3)の証明が煩雑なのはしょうがないのだが、全体の流れとして、Darboux の定理が細分の差に還元できる、という点が重要なポイントである。

*1:松坂(2018) 解析入門 上 を参考にした。

*2:youtube上では以下の解説がわかりやすい。

 

www.youtube.com

 

*3:実数の連続性である。以下この性質は断りなく用いる。

*4:これは記号の濫用だが、混乱は起きないだろう。1.1の定義を考えているかどうかは文脈でわかるはずだ。