中国剰余定理の別証明

 前回に引き続き代数学を勉強しているのだが、教科書に書いてあるのとは違った証明方法を思いついたので、簡単に書いておく。雪江代数一巻に載っている中国剰余定理とは以下のようなものである。

定理.  $ m,n \neq 0 $が互いに素なら、$ \mathbb{Z}/mn\mathbb{Z} \cong \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} $

 この定理は環とイデアルと言う概念を用いることでさらに一般化することができるが、ここでは一巻に乗っているこの定理を証明する。この教科書での証明は$ \mathbb{Z}/mn\mathbb{Z}$から$\mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$へ自然な準同型写像を構成し、それが全射(or単射)であることを確認することで、同型になることを示している。

 思いついた方法はこれよりは幾分か迂遠な方法である。まず、以下の補題を示す。雪江代数1巻の命題2.9.2とほぼ同じである。

補題1. $G$を群、$H, K$を$G$の正規部分群とする。$H \cap K = \{1_G\} $, $|H\times K| = |G|$なら、$G \cong H \times K$

証明. $\phi \colon H \times K \ni (h, k) \to hk \in G$が同型になることを示す。$G \triangleright H, G \triangleright K$より、$h \in H, k \in K$に対し、$hkh^{-1}k^{-1} = 1_G \in H \cap K$である。よって、$H, K$の元は$G$の中で可換である。これにより$\phi$は準同型になる。$H \cap K = \{1_G\} $から$Ker(\phi)=\{1_G\}$になることがわかるので、$\phi$は単射である。$|H\times K| = |G|$より、$\phi$は同型になる。    □

この補題を用いて定理を証明する。ポイントは$ \mathbb{Z}/mn\mathbb{Z} $の中に直接$\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}$と$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$に同型な群を構成することである。

証明. $G = \mathbb{Z}/mn\mathbb{Z}$とする。 n倍写像$\phi \colon \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \ni x + m\mathbb{Z} \to nx + mn\mathbb{Z} \in G$はwell-definedな写像で、単射準同型である。同様にm倍写像$\psi \colon \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \ni x + n\mathbb{Z} \to mx + mn\mathbb{Z} \in G$も単射準同型になる。よって$H = \phi(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})\subset G$は部分群で、$\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}$と同型になる。同様に、$K = \psi(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})\subset G$は 部分群で、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$と同型である。$G$はアーベル群なので、$G \triangleright H, G\triangleright K$である。$ |H| = m $と$|K| = n$は互いに素なので、$H\cap K = \{1_G\}$である。$|H\times K| = |G|$なので、補題1より、$G\cong H\times K \cong\mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$である。   □

補題1は群が直積に分解できることを示すために(主に本の後半や演習問題で)頻繁に用いられる。本の他の部分を読んだ後なら、この証明は自然に出てくるのではないかと思う。

 

参考