n次交替群( n >= 5 )が単純群であることの別証明

 前回に引き続いて、雪江代数に載っている定理の別証明を自分なりに考えたので、書いてまとめておく。

用語の定義と定理

 $ n $ 次交代群とは、$ n $ 次対称群 $S_n$ の偶置換全体の集合のことで、$S_n$の正規部分群である。

定義1. $ sgn \colon S_n \to \{1, -1\} $ を符号とする。この時、$sgn$ は全射準同型となる。$A_n = Ker(sgn)$ を $ n $ 次交替群という。

群 $G$ の自明な正規部分群とは、$G$ それ自身と、$\{1_G\}$ のことである。

定義2. 群 $G$ が非可換群で、自明でない正規部分群を持たないとき、$G$を単純群という。

 $S$ によって生成された部分群とは部分集合 $S$ を含む 群 $G$ の最小の部分群である。

定義3. $S \subset G$ を群 $G$ の部分集合とする。<$S$> $ = \{x_1^{\pm1}\ldots x_n^{\pm1} \mid x_1,\ldots,x_n \in S\}$ を $S$ によって生成された部分群と言う。$x = x_1^{\pm1}\ldots x_m^{\pm1} \in $ <$S$> を、$S$ の元による長さ $ m $ の語と言う。ただし $m = 0$ なら語は $1_G$ を表すものと定義する。

定義4.  $h_1, h_2 \in G$ とし、$g \in G$ があり、$g h_1 g^{-1} = h_2$ となるとき、$h_1, h_2$ は共役であるという。

さて、示したいのは以下の定理である。

定理1.  $A_n$ は $n \geqq 5$ なら単純群である。

 

証明の方針

この定理を示すためにいくつか補題を用意する。雪江代数1巻に載っている命題と同じなので、証明は省略する。

補題1.  $n \geqq 3$ なら、 $A_n$ は長さ3の巡回置換で生成される。

補題2.  $n \geqq 5$ なら、長さ3の巡回置換は $A_n$ で共役である。

 証明の方向性は基本的に教科書に沿う。$\{1\} \neq N$ を $A_n$  の正規部分群とする。もし、$N$ が長さ3の巡回置換を少なくとも一つ含んでいたなら、補題2より、$N$ は長さ3の巡回置換を全て含む。補題1より、$A_n$ は長さ3の巡回置換で生成されており、長さ3の巡回置換全体の集合を含む最小の部分群である。よって、$A_n \subset N$ となるので、$A_n = N$ が従う。以上の議論から $N$ が長さ3の巡回置換を少なくとも一つ含むことを示せば定理の証明が完了することがわかる。

 教科書の証明によれば、 1 \neq \sigma \in N \sigma が不変にする元が最大になるようにとると、背理法から、 \sigma が不変にする元の数が $n-3$ であることがわかる。従って $N$ が長さ3の巡回置換を含むことがわかると言う寸法である。

 以下の証明では、任意に与えられた  1 \neq \sigma \in N から 、 $N$ が正規部分群であるという仮定を用いて、背理法を用いずに、直接長さ3の巡回置換を構成する。なお証明に際しては、教科書の証明を大いに参考にした。

証明

 最初に証明で使う補題を示す。補題3は教科書に乗っている命題なので、証明は省略する。(帰納法による)

補題3.   \sigma が有限集合 $X$ の置換なら、共通する元のない巡回置換  \sigma_1,\ldots , \sigma_m があり、 \sigma = \sigma_1 \cdots \sigma_m と表せる。この時、 \sigma_1,\ldots, \sigma_m は順序を除いて一意的である。また $i \neq j$ なら、 \sigma_i\sigma_j = \sigma_j\sigma_i である。

補題4.   1 \neq \sigma \in N が $i \neq j \neq k $ で、 \sigma = (i\, j)(k\, l)\ldots \sigma_s\ldots\sigma_t \, (t \geqq 2) と書けたとする。 ただし、$t \geqq 3$ なら、$3 \leqq s \leqq t$ について、 \sigma_s は、$i, j, k$ を含まないものとする。この時、長さ3の巡回置換が $N$ に含まれる。

証明.   $\nu = (i\,j\,k) \in A_n $ とする。$t \geqq 3$ なら、$\nu$ は、 \sigma_s \: (3 \leqq s \leqq t) を不変にする。よって、 \nu \sigma \nu^{-1} = (j \, k)(i \,  l) \ldots \sigma_s \ldots \sigma_t である。 \sigma^{-1} = \sigma_t^{-1}\ldots\sigma_s^{-1}\ldots (l \, k)(j \, i) なので、 \nu \sigma \nu^{-1}\sigma^{-1} = (j \, k)(i \, l)(l \, k)(j \, i) = (i \, k)(j \, l) である。$A_n \triangleright N$ なので  \nu \sigma \nu^{-1} \in N であり、 \sigma \in N だったので、 \nu \sigma \nu^{-1}\sigma^{-1} = (i \, k)(j \, l) \in N である。  もし、$l$ が $i, j, k$ のいずれかに等しければ、$(i \, k)(j \, l)$ は長さ3の巡回置換になる。$ i \neq j \neq k \neq l$ とする。$n \geqq 5$ なので、$i, j, k, l$ のいずれとも異なる $ m \leqq n $ がある。  \sigma^{\prime} = \nu \sigma \nu^{-1}\sigma^{-1} として、 \nu^{\prime} = (i \, k \, m) \in A_n とすると、 \nu' \sigma' \nu'^{-1}\sigma'^{-1} = (k \, m)(j \, l)(l \, j)(k \, i) = (i \, k \, m) である。  \nu' \sigma' \nu'^{-1}\sigma'^{-1} \in N は上の議論と同様に従う。□

上の補題と同様に以下が示される。

補題4'   1 \neq \sigma \in N が $i \neq j \neq k \neq l $ で、 \sigma = (i\, j)(j\, k)(k \, l) \ldots \sigma_s\ldots\sigma_t \: (t \geqq 3) と書けたとする。 ただし、$t \geqq 4$ なら、$4 \leqq s \leqq t$ について、 \sigma_s は、$i, j, k$ を含まないものとする。この時、長さ3の巡回置換が $N$ に含まれる。

証明.  $\nu = (i\,j\,k) \in A_n $ とする。 \nu \sigma \nu^{-1} = (j \, k)(k \,  i)(i \, l)\ldots \sigma_s \ldots \sigma_t である。 \sigma^{-1} = \sigma_t^{-1}\ldots\sigma_s^{-1}\ldots (l \, k)(k \, j)(j \, i) なので、 \nu \sigma \nu^{-1}\sigma^{-1} = (j \, k)(k \, i)(i \, l)(l \, k)(k \, j)(j \, i) = (j \, k \,i \,  l)(l \, k \,j \,  i) = (i \, j \, l) である。 \nu \sigma \nu^{-1}\sigma^{-1} \in N は上の議論と同様に従う。□

 

定理の証明.   1 \neq \sigma \in N をとる。 \sigma が長さ3の巡回置換なら、明らかなので、 \sigma は長さ3の巡回置換でないと仮定する。補題3より、 \sigma は共通する元のない巡回置換の積で表される。ここで、 \sigma を共通する元のない巡回置換で、

 \sigma = \sigma_1\ldots \sigma_t =  $(i_{11}\cdots i_{1l_1})\cdots (i_{t1}\cdots i_{tl_t}) \; (l_1 \geqq l_2\ldots \geqq l_t)$ 

と表す。ただし、$l_j = 1$ であるような巡回置換は省くものとする。

$ l_1 = 2 $ とすると、$ l_1 \geqq l_2\ldots \geqq l_t $ なので、$l_1 = \ldots l_t = 2$ である。 \sigma \in A_n なので、$t \geqq 2$ である。 よって、 \sigma は、補題4の条件を満たす。$l_1 = 3$ とすると、 \sigma は長さ3の巡回置換でないと仮定しているので、$t \geqq 2$ である。長さ3の巡回置換は、$(i_{11} \, i_{12})(i_{12} \, i_{13})$  と書けるので、同様に補題4の条件を満たす。$l_1 \geqq 4$ とすると、長さ $l_1 \geqq 4$ の巡回置換は互換の積によって、$(i_{11}\cdots i_{1l_1}) = (i_{11}\, i_{12})(i_{12}\, i_{13})(i_{13} \, i_{14})\cdots(i_{1l_1-1}\, i_{1l_1})$ と書ける。よって \sigma補題4'の条件を満たす。以上より、$N$ は長さ3の巡回置換を含むことがわかった。□

 

追記

 最初は、教科書の証明より簡単な証明を考えようと思っていたのだが、結局教科書の証明のアイディア ( \nu \sigma \nu^{-1} \sigma^{-1} の部分) を使い、あまり変わり映えのしない複雑な証明になった。別証明と言うほどでもないのだが、せっかく書いたことだし、書いたことで勉強になったので、公開することにする。おそらくこれよりも簡単な証明が存在すると思われるが、それは今後の課題としよう。

 この定理の系として、5次以上の対称群($S_n\, (n \geqq 5)$) が可解性という特別な性質を持たないことがわかる。これはガロア理論において、5次以上の方程式が冪根で解けないという事実と関連しているのだと言う。私はまだ、ガロア理論まで追いついていないのだが、今後の学習が楽しみになる定理だと言えよう。

 

参考